「国宝」の中の演目 積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)あらすじ
「関の扉」(関の戸)は、天明四年(1784年)に初演された古い歌舞伎の舞踏劇です1。平安時代初期、仁明天皇の死後で政情が不安定な時期が舞台となっています。
この物語は**「上の巻」と「下の巻」**の二部構成で展開します。
上の巻
• 舞台設定: 雪が降り積もる逢坂山(おうさかやま)の関所にあります。ここでは、仁明天皇の寵臣であった良峯宗貞(よしみねのむねさだ、後の僧正遍照)が隠棲しています。関所の傍らには、先帝が愛した桜が移され、薄墨色の花をつけたことから「墨染桜(すみぞめざくら)」と呼ばれていましたが、小野小町の歌によって色がつき、今では「小町桜」と呼ばれています。この小町桜は雪の中なのに満開という不思議な眺めです。
• 主要登場人物:
◦ 良峯宗貞: 主人公の一人ですが、あまり目立ちません。仁明天皇の家臣で、後の僧正遍照(六歌仙の一人)です。帝の死後の政争を嫌って出家しますが、芝居ではまだ出家しておらず、関守・関兵衛の家でひっそり暮らしています。
◦ 小野小町姫: 宗貞の恋人という設定で登場します。三井寺参詣のために関所を通ろうとし、宗貞と再会します。
◦ 関守関兵衛(せきもり せきべえ): 逢坂の関の関守で、大柄でただ者ではない雰囲気を持っています。
• 物語の展開:
◦ 小町姫が宗貞に会いにやって来ます。
◦ 関兵衛は二人の馴れ初めを聞きたがり、三人はそれぞれの思いを胸に踊り始めます。
◦ 踊りの最中に、関兵衛が袖から宮中で紛失したものとされる「勘合の印」と「割符」を落とします。これは関兵衛が秘密の企みに加担している証拠であり、首謀者であることを示唆します。小町姫が割符を拾い、宗貞は関兵衛を怪しみます。
◦ そこに、宗貞の弟・**安貞(やすさだ)**が自らの死を兄に知らせるために飛ばした使いの鷹が、血で「二子乗舟(にしじょうしゅう)」と書かれた着物の片袖を咥えて飛来します。これは、弟が兄の身代わりに殺されたことを意味します。
◦ さらに、袖の血に反応して鶏が鳴き、その声のする場所を掘ると**大伴家の家宝である「八声の鏡」**が見つかります。大伴氏は政権争いの中で謀反を企んでいる一派です。
◦ 小町姫も都へ来る途中で別の「割符」を手に入れており、それが関兵衛の落としたものとぴったり合うことが分かります。
◦ 宗貞は、関兵衛が大伴黒主(おおとものくろぬし)ではないかと疑い、小町を密かに都の小野篁(おののたかむら)のもとへ知らせに行かせます2...。小町姫と宗貞はここで退場し、以降は登場しません。
下の巻
• 登場人物:
◦ 関守関兵衛(大伴黒主): 実は天下を狙う大伴黒主本人であり、皇位継承に必要な宝物を盗み出し、謀反の好機を窺って逢坂の関に隠れていました。
◦ 墨染(すみぞめ): 小町桜の精が美しい傾城(高級遊女)の姿となって現れた存在です。
• 物語の展開:
◦ 夜になり、関兵衛は一人酒盛りをします。彼は酒盃に映る星を見て星占い(星操り)を行い、樹齢300年の桜の木を切って護摩木(ごまぎ)にすれば大願成就するという吉相が出ます。
◦ 喜んだ関兵衛は小町桜を切ろうとしますが、桜の妖力によって気を失ってしまいます。
◦ すると、桜の木の中から墨染と名乗る美しい傾城が現れ、関兵衛に言い寄ります。
◦ 墨染は、かつて宗貞の弟である安貞と相思相愛の仲であったこと、しかしその安貞を謀反人の首謀者である大伴黒主に殺されたこと、そして自身が小町桜の精であることを明かします。安貞の仇を討つために、人の姿となって関兵衛に近づいたのです。
◦ 墨染に詰め寄られた関兵衛もついに本性を現し、自身が大伴黒主であることを告白します。
◦ 二人は**「ぶっかえり」という歌舞伎の手法で衣装を一瞬にして変え**、関兵衛は国家転覆を狙う恐ろしい怪物に、墨染は強力な妖力を持つモノノケへと変化し、激しく争い始めます。
この芝居は、長い物語の一部であり、この部分には特に決まった結末は描かれず、観客に余韻を楽しませる構成になっています。また、登場人物の小町姫と墨染は、多くの場合、同じ役者さんが演じ分けます。
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