考察「国宝」の中の藤娘
「国宝」の中の藤娘
東一郎と半弥、東半コンビで、半次郎が西の公演で2人藤娘として売り出していたシーンで出てきます。この人気が目に止まって、南座で道成寺を。つまり大きな舞台で2人を売り出そう。となるのですが、美しさと華やかさを表現する演目で本当に素晴らしかったです。
藤娘のあらすじや解説を聞いていただくとよくわかるのですが、ちょっと男心に嫉妬するような歌詞・振り付けがありながらも、恨みつらみというよりはかわいくやきもちを焼く、ちょっと嫉妬して拗ねる、みたいなニュアンスなので、この演目は始終美しくて可愛い娘が、恋する女心を表現しながら可愛く踊る、というような内容です。「国宝」の2人がこれから登っていく、人気になっていく!という場面でこの演目、ぴったりだなと思います。
印象的だったのが、衣装の早変わりを後ろのカメラアングルから写し、音楽の盛り上がりをそこに重ねるところ。このシーンが綺麗でドキドキして、涙が出ました。感情移入して涙が出るというか、美しくて涙が出る。そんな感じです。歌舞伎座や劇場で舞台を観る時には絶対に見ることができない、後ろからのアングル。歌舞伎ファンにもたまらないと思います。
15年間歌舞伎を観てきて思い出に残っている藤娘
藤娘は有名且つ人気の演目なので、1年間のうちどこかではかかっているな、という印象です。何度も観て、そして何度も魅せられてきましたがその中でも印象に残っているものをいくつか。
シネマ歌舞伎の玉様&七之助さん
2人藤娘として踊っているものです。好きすぎて何度もみました。シネマ歌舞伎は映像も玉様が監修しているので美しいし、何よりも舞台袖でのやり取りや、着付けして準備して、舞台へ向かっていくところなど「国宝」の映画のシーンさながらの場面も編集されています。演目だけでなくこの部分を見ることができて、しかもシネマ歌舞伎なのでたったの2000円というのが本当に破格。いつでも観られるわけではないですが、お近くの映画館でシネマ歌舞伎でかかっているときは絶対に観に行ったほうが良いです。
30歳差くらい?の2人が並んでも、年の差を感じることがなくそこにはただただ、美しい可憐な娘が2人。もう本当に魔法みたいです。酔っ払って踊るところは、お互いにお酒を注ぎ合う振り付けで、その飲みっぷりがなんとかわいいこと。ほろ酔いの姿がなんと色っぽいこと…!玉様ファンの私としては、本当に色々な玉様を見てきたつもりですが、悪婆な玉様、神田祭の粋な芸者の玉様、道成寺のキリっとした玉様、清姫、桜姫、お岩さん、どの女性像も本当に素敵ですが、この藤娘が一番「可憐」です。可憐な、若い娘にしか見えない。とってもとってもキュンとしてしまう美しさです。
忘れられない南座での玉様
2022年の夏、ちょうど祇園祭の時。京都で見た玉三郎さんの藤娘が本当に素敵でした。藤娘なんだけど、途中でクリーム色の着物で、あやめの花が飾られていて、初めて見る趣向で。その時の着物があまりにも素敵で、きっといつかああいう優しい卵色の着物を着るんだって思いました。普段銀座野歌舞伎座で見ていると、地方の劇場に行った時には一回り小さいことになるので、その分役者さんを近くに感じられます。あまりの美しさと、幻想的な時間に、観客みんなが瞬きをするのを忘れて見入っているような、呼吸さえも止まってしまっているような一体感を感じました。
藤娘が始まる時は、非常口の明かりさえわからない程、劇場を真っ暗にします。真っ暗で本当に何も見えない状態から、パッと明るくなってそしてその瞬間目に飛び込んでくる一面の藤の花。その中に、美しい藤娘。本当に毎回、夢のような舞台、夢のような時間だなと思います。

