考察「国宝」の中の京鹿子娘道成寺

二人の成功の象徴のような演目

二人藤娘が評判となり、南座で京鹿子娘道成寺を。とまさに東一郎、半弥の成功の象徴のように描かれる京鹿子娘道成寺。映画の中では「二人道成寺」と言われています。映画のキービジュアルも、この道成寺の姿で二人が向かい合うシーン。華やかな赤い着物と、花道でしっかりと向かい合う姿が、ライバルでもあり同志でもあると樹別な二人の関係を象徴しているようでとても美しいです。

京鹿子娘道成寺は、舞踊ですが1時間程踊りっぱなし…!という演目です。女形の舞踊演目の最高峰なんじゃないかなと思います。1人で踊り切ることもありますが、映画のように二人で踊ったり、また2025年5月の菊五郎さん菊之助さんの襲名披露の時のように、3人で踊ったり。美しい女形がさらに集まって華やかさが何倍ともなる素晴らしい演目だと思います。

注目したいのは、あらすじでも書いたようにこれは清姫の鐘への執着を表した踊りということ。映画の中でも、二人で目を合わせて楽しげに踊るシーンもありますが、花道でびしっと扇を鐘に向けてその目を鐘から話さずに進んでいくところ、本当に忠実に本物の歌舞伎、しいては清姫の踊りということを再現していると思います。美しい舞踊で魅了しながらも、鐘への執着を離さない目線。鐘を見るときは、キッと睨みつけるような鋭い視線を向ける。素晴らしいなと思いました。

何度も「引き抜き」で衣装が変わるのがこの道成寺の見どころでもありますが、そのシーンもやっぱり素晴らしいアングルと音楽で彩られていて、本当に見応えがあります。美しさに酔いしれることができる舞台シーンなので、何度も見たくなります。

京鹿子娘道成寺 思うこと

たくさんのお坊さんたちがコミカルな会話をする冒頭のシーン(お坊さんなのに、お酒持ち込んだりおつまみの話で盛り上がっている…笑)そこに突然現れる異様に美しい白拍子。微笑ましい一連の時間が過ぎたあと、本当に最後まで、ずっと魅入ってしまう時間が続きます。

烏帽子をつけて厳かに始まる舞。能の趣を取り入れた舞なので、とっても厳かな感じがします。すっと伸びた背筋でこのシーンが始まると「ああ、道成寺だ」となんともいえない気持ちに。

そしてそこから、かわいい町娘の踊り、鞠をつく踊り、振り出し傘を持った踊り、手ぬぐいを持った色っぽい踊り、そして鈴太鼓を叩きながらのリズミカルな踊り。衣装もコロコロ変わるので本当に引き込まれてしまいます。

踊りの種類が多い=表現の幅もたくさん。というのが、この京鹿子娘道成寺が女形の代表的な舞踊とされている所以だと思います。厳か〜から、町娘の可愛らしさを表現したもの、しっとりとした大人の女性の色気を出して踊るもの。踊りの技術はさることながら、女性の本当に様々な魅力的な姿を表現しているなと思います。私が歌舞伎の女形が好きな理由の一つは、こういう「女性の魅力」を、女性に魅力を感じる男性の目線で「魅力的だと思う女性」を演じているからというのがあります。ただ普通に女子として存在している、その存在よりも、こうであったらとてもかわいい。こうであったらとても素敵。というのを外から解釈して、それを姿形、動き、踊りに落とし込んでいるので、実際の女性よりももっと、素敵で魅力的なのはある意味当たり前なのかなと。だからこそ、観客がその美しさにうっとりしたり、その可愛らしさにキュンとしたり、実際に踊っているのは中年のおじさん(超失礼)であっても「美しい白拍子を見て夢のような心地」になるのだと思います。

思い出に残っている京鹿子娘道成寺

玉三郎さん&菊之助さんの、二人道成寺。これはシネマ歌舞伎で時折上映されているものです。映画「国宝」のヒットを受けて、見たい!という人が増えることを見越して最近臨時で上映がどんどん決まっています。私はいつも東劇で見ていますが、こんなに安く、本物の人間国宝の京鹿子娘道成寺を見られるなんてとても素晴らしいシステムだなと思います。菊之助さんが今よりも若くてお顔がほっそりとしているのも美しい。(もちろん今も美しいです)

次は5人の道成寺。多い…!と思いましたが、花子が5人もそろうと、それはそれは華やか。そしてその中でもひときわ際立って美しい玉三郎さんにどうしても目が行ってしまい、それも玉三郎さんのオーラ、魅力だなと思います。間違えないように踊るのでも精一杯という難易度だろうに、各踊りの中で見せる、表情が本当にその踊りの主人公そのもの。作っているという感じではなくて、花子が踊っているようにしかみえない。まさにそんな感じです。時折鐘を睨むその視線も、ドキリとさせられます。

一番最近観たのは、2025年5月の菊五郎さん、菊之助さん襲名披露でのプラス玉三郎さんの3人道成寺です。玉三郎さんが、京鹿子娘道成寺に参加するというのは、何よりの襲名のお祝いだと思います。そして、御年74歳でこれを踊るとは…。菊五郎さんも、菊之助さんもとっても美しかったですが、私にとってはやっぱり玉三郎さんの美しさが別格でした。これもいつか、映像化してほしいなと思います。

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